コンソーシアム

【特別企画】 座談会:”産学コンソーシアムによる協働大学院”の現在地と未来(後編)

掲載日:2024.07.29

レジリエンス研究教育推進コンソーシアム発足から7年、コンソーシアムを運営母体とした協働大学院方式による筑波大学リスク・レジリエンス工学学位プログラムの始動から4年。
コンソーシアム会長・前会長・副会長が集まり、コンソーシアムや協働大学院の現在地と課題について語り合った座談会(後編)の様子をお届けします。〔前編はこちら
話題は日本における博士人材の評価にも及び、日本社会の未来と本コンソーシアムが果たしうる役割について白熱した議論が交わされました。
(2024年5月27日、東京海上日動火災保険(株)本社にて)

出席者

寶 馨 氏  :レジリエンス研究教育推進コンソーシアム 会長((国研)防災科学技術研究所 理事長)
林 春男 氏 :同 前会長(前・防災科研理事長、現・東京海上日動火災保険(株) アドバイザー)
甘利 康文 氏:同 副会長(セコム(株)IS研究所 リスクマネジメントグループ グループリーダー)
遠藤 靖典 氏:同 副会長(筑波大学 システム情報系教授、システム情報工学研究群長)
岡島 敬一 氏:同 運営委員(筑波大学 システム情報系教授、リスク・レジリエンス工学学位プログラムリーダー)(司会)

コンソーシアムの現在地と課題

岡島

続きまして、コンソーシアムの現在の活動については皆様どのように思われているでしょうか?

色々な企業の現場なり活動を見せてもらうことができて大変勉強になっていますので、企業さんがそういう場を提供してくださるのは大変素晴らしいなと思います。学生も連れて行けば喜ぶ気がするんですよね。自分の分野以外の企業の工場や、様々な研究所のやり方であるとか、今までに見たことのない世界を見てヒントを得ることも多いと思います。

「研究教育推進コンソーシアム」として、最初はまず教育を中心に動いてきて、最近は研究サイドにもウイングを広げようという形にまで育ってきたのかなという印象を持っています。

甘利

会社としてコンソーシアムに参画する際のインセンティブとして、その会社の人間が社会人学生として学位プログラムに入学する際に学費等の経済的なサポートをいただければ、参画機関のモチベーションも大きく変わってくるのではないかなと思っております。

もう一つは、もっと参画機関を増やしていく方向にPR活動をするといいのかなと思います。そもそもコンソーシアムで学位プログラムを運営していることを知らない企業や学生が山のようにいるので。「筑波大学リスク・レジリエンス工学学位プログラム」とその運営母体である「レジリエンス研究教育推進コンソーシアム」と聞くとみんなが「あっ、あれね!」っていうのが分かるようになることを目指して、産官学に対して情報発信していくと良いのではと思います。そうすることで参画機関も増え、学生もどんどん入ってくるようになるのではないでしょうか。

あとは、学生さんが、特に日本の学生さんがなぜ二の足を踏むかというと、「大学院でドクターを取ったあと、俺の人生どうなるのだろう」、「そのまま高学歴ワーキングプアの道まっしぐらか」というのを、マスコミ等を介して随分刷り込まれているところが理由の一つにあると思うんですね。日本で博士課程の学生が非常に少ない理由の一つに、まさに周りからの高学歴ワーキングプアの刷り込みがあって、その根本には、日本の世の中全体が博士の学位取得者をどのように扱うかという体制ができてないというところがあると思うんです。世界的に見たら、一種のガラパゴス状態です。「まず隗より始めよ」ではないですけれど、最初の一歩として「このコンソーシアムから世の中変えるぞ」くらいの意気込みで情報発信をしていくといいかなと思ったりしております。

遠藤

7年経ち学生も輩出している一方で、いくつかの課題も見えてきています。例えば、コンソーシアムの会費はないので入りやすくなっていますが、実際には参画機関から労働力をいただいています。この労働力に見合ったものが果たしてこのコンソーシアムで提供できているか、ということを考えていかないといけません。一般社会では「3割働く人がいたら組織は動く」と言われますけれども、できる限り10割、皆さんが楽しくできるようになってほしいなと思います。そこが一番大きな課題ですね。

それから、甘利さんもご指摘のように、企業から社会人学生が「これは良い」と思って入学するに見合うだけの見返りがあると思えるよう仕組みを改善していく必要があります。ぱっと思い浮かぶものとして学費というところもあるでしょうし、あるいは協働大学院教員がいる企業からの社会人学生であれば、大学キャンパスにほとんど来なくても、その教員のもとで指導を受けて博士が取れるという利便性ということにもなるのかもしれません。

ドクターに対する評価から考える日本社会の未来

岡島

今後の展望や期待につきまして一言ずついただけますでしょうか?

甘利

日本の世の中全体で「ドクターをとったからこそ活躍の場がある」という形をとっていかないとなかなか難しいのではと、正直なところ思っています。企業の採用で「全学部全学科」という募集がよくありますけれども、要は、企業が大学教育に「何も期待してないよ」と言っているような採用の仕方を、社会全体で変えていかないといけないのではないかと思います。例えばの私見ですが、各企業が「この分野で学位を持っていたら初任給1200万円出しますよ」となるような動きが、世の中全体的に広がれば、状況は大きく変わってくると思うんですよね。

甘利さんのコメントについて考えていたんですが、やっぱりドクターというものに対する考え方をきちっとする必要があるんじゃないでしょうか。日本の高等教育を卒業した人は「グライダー」だと言われてるんですね。卒業したときが一番高くて、後は落ちているだけで、いつまで持つかです。そういうイメージでドクターを考えていたらやっぱり駄目なんじゃないか。アメリカのように、Ph.D.はアドミッションチケットで、資格社会の中で自分を有資格者として示すために必須なんだ、という考え方は、日本では成立していないですよね。さすがに今は教員がほぼ全員ドクターを持つようになって80年代のようなことはないですけれども、アドミッションチケットだという認識はないんじゃないか。アドミッションチケットならば、ひとつのプロジェクトを3年くらいやったら別のところに移ったりして、優秀な人はキャリア30年のうち10回くらい転機を迎えるというようなキャリアパスが作られている。我が国はなかなかそうなっていなくて、グライダー的な社会を維持しているわけです。

理事長をやっていたときに日本型の人事と欧米型の人事の違いを説明した面白い本がありました。資格型社会というのは、一つのポジションに候補者が複数いて、誰かが選ばれて誰かが負ける、負けた人は去らないといけない、というやり方をしているから、さっきの仕組みが成立する。ところが日本では、枠があって順番に人を入れていって、どこかで上位のポジションが空くと、下位の中から良い人を選んで上に行かせる、そうやって駒を動かすようにして優秀な人をできるだけ上に残すような人事が今でも続いている。この仕組みが変わらない限り、やっぱり学位に対する考え方が変わるのも難しいんだろうなという気はします。

だから何が結論かというと、正直ないんだけれども、駒を動かすようにしている社会はどっちかといったら潰れていくかもしれない気がしてるんです。だから資格型に変えていかないといけないけど、そのためには今のみんなをガラガラポンしないと駄目なんじゃないかなという気がしています。みんながどこまで覚悟できるかによって、このコンソーシアムや博士プログラムのあり方も変わっていくんだろうけれども、個人的には、今までの努力を着実に続けるというところが、みんなの落としどころになってるんじゃないだろうかという、危惧のような、安心感のようなところが否めないんです。

遠藤

 

私は大学のシステム情報工学研究群長という立場もあるので、考えないといけない視点がいくつかあります。一つは研究群におけるコンソーシアム、二つ目は学位プログラムとしてのコンソーシアム、三つ目は副会長としてのコンソーシアム。

まず研究群としてのコンソーシアムで言えば、この協働大学方式は結構いいところが多いので、できるだけ全学に敷衍したいということを考えて、今動いております。ただ、予算の問題もあって、他大学のように企業からお金を集めてという方式もあるけれど、それが我々のシステムと合致するかどうかはまた別の話ですから、ここは十分検討しなければいけないですね。

それから、やはりコンソーシアムの副会長としてもっと活性化させたいなと。そのためには本質的な部分として、今日先生方がお話しなさったように日本の博士に対する考え方というのは何とかしないといけない、それが一番大きいなという気はしています。さらに言うと、今、国立大学の予算がどんどん削減されていますが、日本の博士のあり方については、ここと結構繋がりがあるんじゃないかな。ここは僕一人でどうにかなるもんではないですが、考えなきゃいけないなという気がします。

岡島

最後に、コンソーシアム会長の寶先生から展望や期待はいかがでしょうか?

今日議論したようなことを今後のシンポジウムのテーマにしてはいかがですか。参画企業もエンカレッジできるし、外部の方も呼んでドクターの問題をやってもらうとかどうでしょう。今、企業ではジェンダーバランスばかりやっているけれど、ドクターバランスも考えてはどうか、とかそういう発想を参画企業の皆さんにも持ってもらっては。せっかく15の参画機関があり、今でも貢献いただいているんですが、改めて目を見開いてもらう機会にしてはいかがかと思います。

岡島

まだまだ議論は尽きないところですが残念ながら予定時間になりましたので、これで終了したいと思います。本日は活発なご議論をいただきまして、誠にありがとうございました。