2024年10月18日、2024年度レジリエンス研究教育推進コンソーシアムシンポジウム「博士人材の活用を再考する:産学協働で描くイノベーター育成の道」が秋葉原コンベンションホール(東京都千代田区)にて開催されました。
本シンポジウムは筑波大学の共催、20の学会等の後援により開催され、当日は大学、企業、研究機関等から51名の参加がありました。
シンポジウムは、総合司会の安部原也氏(日本自動車研究所 主任研究員/筑波大学教授(協働大学院))の進行のもと、3本の講演とパネルディスカッションにより構成されました。
第1部 講演
■「博士人材の活躍に向けた政策動向(官の視点)」
髙見英樹氏(文部科学省高等教育局 企画官(併)高等教育政策室長)
まずは文部科学省の髙見氏より、同省が今年3月に策定した「博士人材活躍プラン~博士をとろう~」の意義や具体的内容を解説いただきました。
プラン策定の背景として、学生が経済的理由や就職先の不安から博士課程進学を控える傾向にあることが指摘され、産業界との連携による多様なキャリアパスの開拓、大学院教育の質の向上、学生本人への動機付けの3つのフェーズにおける具体的取組みが紹介されました。また、具体的数値目標として、2040年までに人口100万人あたりの博士号取得者数を世界トップレベル(2020年度比約3倍)に引き上げることが示されました。
■「博士人材の採用と活用(企業の視点)」
前田裕二氏(NTT宇宙環境エネルギー研究所 所長)
続いて、NTTの前田氏より、同社が開発中心から研究中心にシフトチェンジする流れの中で、社内で博士人材がどのように活躍しているかの話題提供がありました。
同社では、2019年発表の「IOWN構想(光を中心とした高速大容量通信と膨大な計算リソースを提供する次世代ネットワーク・情報処理基盤)」を契機に、従前の開発中心から研究中心へのシフトが図られ、研究の質の向上のため博士人材が果たす役割が大きくなっており、社員の博士号取得も積極的に支援しているとの説明がありました。
■「博士人材の育成と送り出し(大学の視点)」
遠藤靖典氏(筑波大学 教授 システム情報工学研究群長)
最後に大学の立場として、筑波大学の遠藤氏より話題提供がありました。
システム情報工学研究群を事例に、課題として学生の修士から博士課程への内部進学率の低さや、博士課程修了者の就職先が特定の業種に偏向している状況の説明があり、これらの課題に対応するための方策の一つとして取り組む「協働大学院方式」によるリスク・レジリエンス工学学位プログラムの紹介がありました。協働大学院方式は産学のコンソーシアムが協働してプログラムを運営し、出口を見据えた人材育成を行っていることが特徴として挙げられました。
第2部 パネルディスカッション「博士人材の活用を再考する」
第2部では、岡島敬一氏(筑波大学 教授 リスク・レジリエンス工学学位プログラムリーダー)の進行のもと、第1部登壇者に加え、社会人学生として筑波大学リスク・レジリエンス工学学位プログラムで博士号を取得した真城源学氏(東急総合研究所)をパネリストに迎えディスカッションが行われました。
主な論点
- 博士人材の有用性の言語化と風土づくり:産業界の意識改革、大学院教育改革、若い世代の動機付けなどを通じて、博士人材の価値を社会全体で認識し、時間をかけて一人一人の意識を変えていくことが必要。
- 博士の汎用的能力と国際競争力:難しい意思決定やリーダーシップが求められる場面など、博士人材が持つ高度な汎用的能力が企業経営や国際競争力に寄与することを広く周知してくことが必要。
- 優秀な人材の海外流出:フロンティア精神を持つ日本人学生が海外に流出している。海外で研鑽を積んだ彼らが日本に戻ってきて、日本の高等教育や社会を変えていく存在になるような道筋も必要。
- 博士が身近にいる環境づくり:学部生段階、さらに初等・中等教育段階から、探求型、課題解決型の学びを深めるとともに、博士との接点を持つ環境を整えることが重要。